NOVEL
イノセントチャイナ
6,939 文字/1p
まくて/クレヨン観覧車
沖神エアプチアンソロ「おでかけ」参加作品です。ある薬の効果で10歳になった神楽ちゃんが、
沖田くんとほのぼのデートするお話素敵な企画に参加させていただき、ありがとうございます!
注意事項:上記にもありますが、神楽ちゃんが10歳になっちゃう設定です。
俺はいつものように、食堂の冷蔵庫にある土方のマヨに下剤を仕込んでいた。
「沖田隊長!!...探しましたよ~。こんなところにいたんですね」
ガラガラと扉が開いて、ザキが顔を出す。
「ザキか。どうしたんでィ」
「チャイナさん、来てますよ」
「...まじ?」
即座にマヨのボトルをぶん投げて、食堂を飛び出した。
「わかりやすいなあ。犬がしっぽブンブン振ってるみたい」
......聞こえてんだけど。あとでシメとこ。
指をゴキゴキ鳴らしながら、やたらデケー声のする門の方へ足を進めた。
「たのもォォ!!」
「んだよ、うっせーなチャイナ」
わざわざ屯所まで来てくれたのかという沸き上がる喜びを押し殺して、ポーカーフェイスで彼女の方へ近づいていく。
「あ、おきた!!」
俺の姿を見つけると、門をくぐって元気よく抱きついてきたチャイナ。
抱きついて...抱きついてきた?チャイナが?
「......はい?」
「沖田ぁ~...」
猫みてえに、俺の胸板に顔を擦り付けている。
「おい、チャイナ?」
「今日はス○バの新作奢ってくれるって約束してたダロ!」
「...ぁあ、そうだったねィ」
「んふふ、楽しみアル!」
ニコニコしながら、俺にしがみついて離れない。
「チャイナ、今日お前なんか違くね?」
「なんにも違わないアル!神楽サマは今日もプリチーダロ!」
可愛い。可愛いけれども。
......って、アレ?
なんか俺も、チャイナのデレに流されてねえか?
「...行こ?沖田と早くデートしたいアル」
デ、、?デート...?
チャイナの口から...オキタトデート......?
「......ああ、わかった。わかったけど、少し待ってろよ?」
ひとまずチャイナに気をつけの姿勢をとらせて、その場に踏みとどまらせる。
「...なにアルか」
チャイナは不満げに、ぷくっと頬を膨らませた。
「おい!!ザキ!!ちょっと来い!!!」
屯所の廊下をちょうど歩いていたザキを呼び出す。
「なんすか~、人使い荒いなあ」
「今日のチャイナ、なんかおかしい。ちょいと調べてくんね?あ、触診はナシな。斬るぞ」
「色々めんどくさいなあっ!!はいはい、分かりましたよ!」
そうして、ザキが1歩踏み寄ると。
「おかしくなんかないアルぅ!」
「ぐぇっ」
ドカンと体当たりをして、再び抱きついてくるチャイナ。
「ほら、おかしいだろィ」
「確かに。いつものチャイナさんと比べると積極的というか、甘えん坊というか...」
「...なんか心当たりねえ?」
「う~ん...チャイナさん、なんか食べたり飲んだりしましたか?」
ザキがそう尋ねると、チャイナは少し考えた後で手をパンッと叩く。
「あ、さっきそこにアメみたいなのが落ちてたから。...つい。食べちゃったアル」
「...絶対それだろィ......」
テヘッと舌を出す女を前に、頭を抱えた。
「そこって...門の前ですか?」
「おいまさか、押収品が落ちてたんじゃ......」
「ぁあ...さっき、段ボールで運んできてましたね...」
隊士が二人がかりで段ボールを抱えていたのは、俺も目撃している。
「......マジか。おいチャイナ、知らねえ奴に貰ったもんと落ちてるもんは食うなっていつも言ってんだろィ!」
「もはや彼氏っつーかお母さんですね、アンタ...」
「うぅ、ゴメン......いちご味、美味しそうだったんだモン。」
チャイナはしょぼんとした表情で、俺の腕にしがみついてきた。
......やべえ。そんな顔で見つめられると弱っちまうだろーが。
「ちょっと隊長。なに絆されてるんですか。大変なことかもしれんのでしょ?」
「ほ、絆されてなんかねーよ。...ほら、なに食ったか調べるぞ」
ザキの背中を押すと、クソデカい溜め息をつかれた。
「はァ~~、俺が今すぐ調べてきますんで。隊長は部屋でチャイナさんと大人しく待っててください」
「...まじ?助かる。んじゃ頼む」
「ええ!ス○バは!?売り切れちゃうアル!」
チャイナは地団駄を踏みながら、隊服の袖を引っ張ってくる。
「わかってらァ。なんなら誰かにドライブスルー頼むか」
「いやアル!!私は沖田と行きたいんだモン!!」
......なに、この可愛い生き物。天使なの?
「.....そうかィ。じゃあ、もう少しだけ待ってくんね?すぐ済ませっから」
「ウンっ!!」
チャイナが、太陽のような笑顔で微笑む。
「...今更ですけど、女人禁制ですからねココ?特別ですからね??チャイナさんフツーにいつも出入りしてるし、今に始まったことじゃないですけど!」
「あり、ザキまだいたんかィ」
「くっ......このリア充がぁぁあ......」
そうして歯ぎしりをしながら、ドスドスと足音を立てて去っていくザキ。
「じゃ、部屋行くかィ」
「ウン!」
俺たちは手を繋いで、それはそれはイチャつきながら部屋へ向かうのだった。
*
「隊長、失礼します~。分かりましたよ~。症状だけですが」
数分後、ザキが資料を抱えて部屋に入ってきた。
「お、さすが早いな。頼りにしてるぜ監察」
「...沖田隊長。キャラ違いすぎて引きます」
「しょうがねーだろィ。チャイナがこの様子じゃ、俺も思わずニヤけちまうわ」
チャイナは俺の膝の上に乗り、ぎゅっと抱きついたままだ。
「...そんで?どうだった」
「はい。それなんですが、まずひとつチャイナさんに質問があります」
「しつもん??」
チャイナは、ザキの方を興味津々で見つめた。
「チャイナさん、今何歳ですか?」
「え、普通に14だよな?」
「何言ってるネ!10さい!アルぅ!」
チャイナは両手でパーを作って、10!と連呼する。
「...は?」
「...やっぱり。どうやらチャイナさんは、若返る薬を飲んじゃったみたいです」
ザキはコピーした資料を、バサッと突き出してきた。
「...若返るっていうか...こいつの場合、ガキになっただけだろ」
「...まあ、そうですね。えーと、チャイナさんが食べたのは、若返るサプリという風な宣伝文句で違法販売されていた物です。でも、全く効かないどころか危険な薬物が配合されていた恐れもあって。ウチで大量に押収したんです」
道理で、段ボール一杯に入ってたわけだ。
「...チャイナには効いてるみてえだけど?」
「う~ん...苦情殺到ですぐ販売中止になったらしく、事例が少ないんですよね。もしかしたら、天人とか夜兎とか、チャイナさんにしか出せない効果を引き出しちゃったのかも...」
「はァ......」
チラッと下を見ると、純粋無垢な瞳のチャイナと目が合った。
呑気だねィ、こいつは。
「...治る方法は分かんねーの?」
「そうですね、、治るというか...根本的に、若返るって言うからには戻っちゃいけないんじゃないですか?」
「あー、なるほどなァ。でも、ずっとこのままってわけにもいかねえだろィ...」
四六時中こんなにデレられたら、主に俺の心臓がもたねえ。
「ですよね...一晩寝たら、戻ったりするかもしれませんし。...ひとまず、似たような事例で解決策を探しておきますね」
ザキは資料をパラパラと捲りながら、マーカーで線を引いていた。
「...何でィ、やけに協力的じゃねーか」
「失礼な!俺はいつもあんたらの雑務に尽力してんでしょーが!!それに、いつまでもデロ甘なリア充オーラぶちまけられたら気が狂いそうになるので」
そう言うザキはにこやかだが、たしかに目が死んでいる。
「おー、それは悪ぃな。32歳童貞にはキツかったか」
「なんとでも言ってください~」
ヤレヤレといった表情で、重い腰をあげるザキ。
「...ま、恩に着るわ」
「...いーえ。どーいたしまして」
そう言うとピシャンと襖を閉めて、部屋を出ていった。
「10歳、、ねえ...」
見たところ、外見と記憶は14歳のままのようだ。
内面というか心情?態度?が、10歳になったといったところか。
「若返るって言ったらフツー、肌とかじゃねーの?ますますイカれてんな」
「...なにをブツブツ言ってるアルか?もう話終わった?ス○バは??」
いや、お前の話だっつーの。どんだけス〇バ飲みたいんでィ。
「...まあ、症状が分かっただけいいか。よし、行くぞ」
「わーい!やったアルぅ!」
チャイナは勢いよく、外へと駆け出していった。
*
「ん~、美味しいアル!」
ス○バの新作にありつけて、ご満悦なチャイナ。
チューチュー飲んでいる姿が、また可愛くてしょうがねえ。
「...美味いか?」
「美味しいアル!沖田も!」
そう言って、ずいっとストローを差し出してくる。
いつものチャイナなら、まず有り得ねえな。
ましてや間接キスなんて。
「...ん、甘ぇな~...」
いかにも、子どもが好きそうな味がした。
たしか、いつもよりホイップ多めにしろとか言われたっけ。
「んふふ、幸せアル~」
ふと、俺の手を握ってくる。
......手ぇ繋ぐの好きなんかィ、こいつ。
「次、駄菓子屋行きたい!酢昆布買ってヨ!」
「...しょーがねえなァ」
幼さに心を奪われ、つい甘やかしてしまう。
泣かれたりしたら面倒だし、いつものような嫌味のひとつも言えやしない。
アレ、10歳って泣くか?俺が10歳の時、どんなだったっけ。10歳ってなんだっけ。
よく分からなくなってきた。
「...ま、こっちも悪くはねえか」
チャイナとの子どもが出来たらこんな風なんだろうか、とか考えちまうしな。
*
「いらっしゃい、隊長さん。...今日はずいぶんと神楽ちゃんと距離が近いのねえ。可愛いわぁ~」
駄菓子屋のばーさんが、ニコニコしながら俺たちを見ている。
「...今日は、ちょっと訳ありで。いつもこのくらい、素直になればいいんですがね。お互い」
「......あらあら」
「ばーちゃーーーん!!ビックリマンチョコ買いにきたぜーーー!!」
すると、近所のガキたちが店に飛び込んできた。
「騒がしいねえ。ちゃーんと、レア物見定めて買うんだよ」
ばーさんはこの勢いに慣れているらしく、目を細める姿に貫禄がある。
「見定めっつってもさー!暗視でもしねーとわかんねーよばーちゃん!」
「暗視ってまじかっこよくね?できたらかっこよくね?」
「つかもう響きがかっこよくね?」
一気に店内がガヤガヤしてきた。
元気ありすぎだろ、こいつら。
「...るさいアルぅ」
「チャイナ?」
チャイナは俺の背中に回ると、ジャケットの中に潜り込み、腰あたりに手を回してきた。
「うぉっ、...くすぐってえ」
「...酢昆布買って、早く帰るアル」
「......抱きつかれたら、レジ行けねーんだけど?お嬢さん」
「だってオマエの匂い、落ち着くモン」
「はぁ......」
俺は思わず、手で顔を覆う。
なんなのマジで。可愛すぎんだけど。
酢昆布を手に取り、半ばチャイナを引きずりながら会計を済ませて店を出た。
「チャイナ。いい加減出てこい。歩きづらい」
「...ハーイ」
背中のほうでモゾモゾと動いて、また俺の隣に並んで手を握ってくる。
「...んふふ~」
やっぱり、チャイナはスキンシップが好きなようだ。
あまりにも無邪気で、素で。これがチャイナの本当の内面なんだと思った。
14歳のコイツは、それを隠しているのだろうか。...だったら、ツンデレにも程がある。
「...今日何回、可愛いって言ってんだろ俺」
チャイナの頭にポンと手を置くと、不思議そうな顔をして見つめてくる。
「...その上目遣い、ずりーわ」
いつもなら、ここでキスをするところだが。
(今は中身10歳だしな......どうなる??俺)
とりあえず、グッと踏みとどまってみる。
(...大人しく帰ろ)
こうしてチャイナの手を引き、若干とぼとぼと帰っていく俺なのであった。
*
「先、俺の部屋戻ってな」
「...分かったアル」
屯所に戻り、監察室へ寄る。
「ザキ、どうだ?」
「あ、隊長。うーん、まだ解決策は掴めてないです」
ザキはパソコンと睨めっこしながら、調査を続けているようだった。
「そうか......」
「でもチャイナさんすごい甘えてきてるし、隊長は満更でもなかったりします?」
カラカラと笑いながら、ザキは茶を飲む。
「...まあなァ。ひとつ聞くけど。さすがに18歳が10歳にキスすんのは犯罪臭するよなァ?」
「ぶっっっはっ!!...確かに。それはヤバいですね、アハハハ...あっぶね、お茶零れる」
腹を抱えて笑いやがるから、思わず茶をぶっかけたい衝動に駆られた。
「おい、いつまで笑ってんでィ」
「すいませんすいません。それは一大事だ~」
そう言う反面、笑い疲れたとばかりにあっさりとパソコンをいじり出すザキ。
「...おめーに言った俺が馬鹿だったわ。じゃ、引き続き調査頼まァ」
「はいよ~。お疲れ様です」
お疲れ様って、どっちの意味でィ。
と思いながら、俺は再び自室へ向かう。
「チャイナ、お待た...せ?」
そこではチャイナが座布団を枕にしながら、すよすよと眠っていた。
「...どっから見つけたんでィ、これ」
しかも、俺のアイマスクをちゃっかり装着している。
「...ったく、自由だよなコイツは。人の気も知らねえで」
頬にかかる髪をすくって、指で遊ぶ。
「俺はおめーが何歳でも、好きな気持ちは変わんねえみてーだわ」
そしてそのまま、口づけた。
「...バレねーなら、いいだろ」
そっと、唇を離す。
「......バレてるアル」
その口からは、確かにチャイナの声が発せられた。
「...え、」
チャイナはむくりと起き上がるとアイマスクを外し、俺を睨みつける。
「...オトメの寝込みにチューすんな、バカ」
それは、いつものツンツン口調だった。
「チャイナ、もしかして戻った??」
「...戻る??なに言ってるネ」
ふぁー、と大きく欠伸をひとつ挟んで、沈黙が流れる。
「...は?」
「...はぁ?」
ふたり揃ってポカーンとしているところに、ドタバタと近づく足音。
「隊長!分かりましたよ!それがですね...」
ザキが勢いよく入室してきた。
「あーザキ。いいところに来た。なんか戻ったみてーだぜ、コイツ」
「...さっきから、オマエ何言ってるアルか?」
チャイナはちんぷんかんぷんらしく、寝ぼけ眼を擦っている。
「え、え、ぇえ...まさか隊長、しちゃったんですか?」
「ぁあ。キスだろィ?したら戻ったぜ」
あっけらかんとそう言うと、ガッと腕を掴まれた。
「っ、おまっ...ジミーになに言ってるネ!!」
「なーにーチャイナさん、恥ずかしいのぉ?」
ニヤリと彼女を見つめると、プルプル震える小さな肩。
「~~ッ!!死ネ!!!!」
「ぐふぉっ!!!」
「ぶべらっ!!!なんで俺までェエ!!?」
俺はチャイナにみぞおちを思い切り殴られ、ザキにぶつかり、襖を突き破る破壊力で吹っ飛ばされた。
その衝撃で、ザキが握っていた一枚の紙が空を舞う。
その紙には、たった一行分の文字だけが印字されていた。
【解決策...対象者に接吻をすること】
*
数日後。
「ふぉ~!高いアルな~!」
チャイナは若返っていた時の記憶がないらしく、ス〇バの埋め合わせに遊園地に連行された。
もちろん、俺の金で。
「なにが埋め合わせでィ。お前の記憶がないだけで、ス〇バはちゃんと奢ったわ」
「いいじゃんヨ。絶世の美少女と遊園地デートできてるアルよ?」
チャイナは観覧車の中から外の景色を眺めて、上機嫌である。
「あの事態を招いたのも、すべてはお前の拾い食いのせいだし」
「うっさいアル。でもオマエ、めっちゃデレデレしてたってジミーから聞いたアルよ」
「チッ...ザキの野郎...」
口喧嘩をしている最中にも、観覧車は上へ上へと上がっていく。
もうすぐ頂上が近い。
なんだチクショー、せっかく念願の彼女と観覧車だってのにこの雰囲気。
チューする場所じゃなかったのか、ここは。
「......オイ、」
「あ?」
向かい合わせに座っているチャイナは、モゾッと動いた。
「......もうすぐ、することあんだろ」
「...!」
どうやら、思っていたのは俺だけじゃなかったようで。
「...はぁ~~、」
一言でムード変えられるなんて、とんでもねえ破壊力だな。
「......あり?もしかして、また10歳の甘えたチャイナに戻った?」
なんか悔しいから、そう揶揄ってみた。
「...ばか、」
チャイナは赤い顔をして、俯く。
「...オマエの自慢の彼女、神楽サマ。かっこじゅうよんさいかっことじ、のまんまアル」
「...ふ、」
俺が立ち上がると、チャイナは一瞬身構えて顔を逸らした。
「...っ、」
顎を、指でツーッとなぞる。
こっちに顔を向けさせると、その長い睫毛は下を向いた。
「......え?」
そのツラを眺めていると、ふっと目が開く。
「え?...え?」
微動だにしない俺を前に、チャイナは困惑していた。
「......そんなに急ぐなよ」
ご。よん。さん。に。いち。
「...んむッ、」
「.....てっぺん、とーちゃく」
これから、俺たちのゴンドラは下へ向かっていく。
「...な、なんで分かるんだヨ」
チャイナは風呂上がりみてえに赤い顔をして、後ずさった。
「んー、平衡感覚が冴えてるから?」
どうせなら、真上でチューしたくね?
「......まだ、半分あるヨ」
ぽつり、チャイナが呟く。
「...っ、」
物足りない。
彼女の顔には、確かにそう書いてあった。
「...おまえ、ほんと策士だな」
再び、ゴンドラの重心は一点に集中する。
「んぅ...、ん、」
ふたりきりの密室は、こうして帰路についた。