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NOVEL

リメンバー・プロミス 

9,560 文字/1p

 

茅野/まるまど。

現代パロ、1814の幼馴染の沖田と神楽が神威を尾行しながら遊園地デートするお話。


注意事項: 現代パロ、幼馴染設定。1814(高校三年と中学二年)

ほんの少しだけモブいます(話しません)

​サムネ素材元:らん様(https://www.pixiv.net/users/6815540)

「約束アルヨ。神楽が立派なレディーになったら……」

年端もいかない少女が泣きはらした顔で小指を立てて笑う。

「あぁ、約束でィ」



 

記憶は、成長するにつれて段々と薄れていくものである。



 

リメンバー・プロミス


 

周りを見渡せばカップルだらけ。気の抜けるような音楽や、悲鳴が飛び交うその場所に沖田は四つ下の幼馴染の神楽と一緒に立っていた。

確か六年前、沖田が小六ぐらいの時に来たことがある遊園地。あの頃はどれもかしこも大きく見えたが今はまったく感じない。六年前も神楽達と一緒に来た。記憶の中とは少しずつ違う遊園地に時間の流れを感じる。

 

「おい、ぼさっとしてんじゃねぇアル。しっかりと見てろヨ」

「……いやなんで俺ここに連れてこられているわけ……?」

 

普段は家族連れなどが多い遊園地であるが、今日はやたらとカップルが目に入る。

それもそのはず。今日は“カップルデー”というカップルでくると入場料云々が割引されるという日だ。

そんな日に二人で遊園地に来ている沖田と神楽。二人はカップル……ではなく、ただの幼馴染という関係。

なぜカップルでもない二人がカップルデーなんぞに遊園地にいるか。それは神楽の目線の先にある、彼女と同じ髪色、似た顔をした兄の神威が原因にある。

 

「昨日いきなり『明日ヒマだよナ?』って電話してきて要件も言わずに場所と時間だけ指定して切りやがって……なんで俺ら神威を尾行することになってんの?」

 

用事もない沖田は神楽の指定の場所へと向かった。なぜか帽子と伊達メガネをつけた神楽から似たような帽子と眼鏡渡され「さぁ行くアル!」と連れてこられたのが、遊園地だった。

 

「シッ!あんまり大きな声を出すとアイツにばれるアル。アイツは気配に敏感だからナ」

「……いやだからなんで俺ら神威を尾行しなきゃいけねぇんでィ?」

「オマエ、アイツの横にいる女が見えないのか!」

神楽にそう言われて沖田は神威の方をちらりと見ると神威の隣には見たことのない女性。神威に彼女がいたなんて聞いたことねぇなぁ。と思いながら神楽の方に目線を戻すと神楽はじっと神威達から目線を外さない。

 

「……何、兄貴のデートを尾行するつもりかィ?ブラコンも対外にしとけよ」

「オマエのシスコンと一緒にするナ!私はブラコンじゃないアル!それに別にアイツが誰と付き合おうが私には関係ないネ!」

「だったら何で尾行なんてマネする必要があるんでィ。それになんで俺を巻きこんだ。俺の金で兄貴のデートの尾行をするってどういうつもりでィ」

「だって、今日カップルデーだから割引あるダロ?それに年上なんだから奢るのは当然アル」

 

今日はカップルデーだ。そのため遊園地はカップルだらけ。こんな中に一人でいたら浮くのは必須だろう。周りからみたら、沖田と神楽もカップルに見えるのだろうか。

 

「なんでそれで俺なわけ?別に他の男でも誘えばよかっただろィ」

見てくれだけなら一級品ともいえる神楽が声をかければ一緒に行く男など簡単に捕まりそうだ。

 

「オマエ、千年に一度の美少女である神楽様が誘ったら勘違いされてしまうダロ?その点お前なら後腐れないし、気心も知れているし、神威のこともよーく知っているから楽アル」

「てめぇ自分で美少女とか言ってんじゃねぇよ。前か後かわかんねぇちんちくりんが」

 

神楽が中学に上がったころから、神楽と一緒に遊んだり出かけたりするということが極端に少なくなった。こうやって神楽と出かけるのも久しぶりだ。幼少期から神楽に対して邪な気持ちを抱いている沖田としては今日呼び出されたのはデートではないかと少し期待していた。まぁ薄々わかっていたことだが、財布として呼ばれたことに沖田は肩を落とす。


 

「俺とならカップルに見えてもいいってかねぇ……」

そう沖田が小さくつぶやくと神楽には聞こえなかったようで首を傾げて沖田の方を見てくる。

「??何を言っているアルカ?」

「……俺とてめぇじゃいいとこ兄妹にしかみえねぇんじゃねぇか」

「失礼な。私の兄貴はオマエと違って……はっ!」

神楽はいきなり沖田の顔と身体をじっと見る。

「……オマエ、特徴だけ取り出したら神威とほとんど同じアルナ」

「うるせぇ……」

 

しかし、これは結構なチャンスではないだろうか。中学になり身体も成長していく神楽は無防備な姿を沖田にも見せる。男と全く意識していない様子が見られるのだ。ここは男として意識させられる絶好の機会だ。そして何よりカップルのデート気分を味わえる。

目的はあれだが、この機会を逃すわけにはいけない。


 

「そういや、この帽子……」

「変装アル!普通にしていたら私もオマエも目立つからな。伊達メガネと帽子すればすぐには気づかれまい……あ、さすがにオマエのやつは私のサイズじゃ小さいから神威のパチってきたアル」

「いやお前そればれるだろ。なんで神威の帽子……」

神威だって自分の帽子と同じやつが視界に入ったら目に付くだろう。という突っ込みはせずに神威の尾行を続けている神楽についていく。

 

「なぁ、隣にいる女、オマエ知っているアルカ?」

「知らねぇなぁ……神威と高校ちげぇし、高校の同級生とか後輩とかじゃねぇの?」

あの神威に彼女ができたという話は聞いたことがないし、本人からも聞いたことはない。見た感じ、あんまり印象に残らないような女だ。そこまでの美人でもないし、だからといってブサイクというわけでもない。

 

「ん~じゃあカップル限定パフェが目的だナ……神威、食べたいっていってたし……あぁ~~私も食べたいアル!」

「カップル限定パフェ?」

「カップルデーだけに販売されているカップルのみしか買えない限定パフェ!すごくおいしそうだったネ!」

目をキラキラとさせた神楽が鼻息を荒くして沖田にどうおいしそうなのか熱弁し始める。見た目は少し成長したが、食い意地は幼少期から何も変わっていないらしい。神楽の変わっていない部分を見て安心している自分がいる。

 

「食べればいいじゃねぇか、どうせ神威も行くんだろうし……」

「まぁそうアルナ。あ、神威たち動いたネ!行くアル!」




 

***


 

「ぜってぇ嫌でィ!」

「なんでヨ!いいダロ!神威達も並んでいるアル!」

「いやいやいや。お前ひとりで行って来いよ。俺ァここで待ってるからよ」

「嫌アル!このカップルだらけの中一人で並ぶの寂しいダロ!!」

「いやいやいやいや。おめぇ俺が苦手なの知ってるだろィ!無理やり乗せようとするんじゃねぇや!それにあれは昔トラウマ植え付けたジェットコースターだぞ!無理にきまってらァ!!」

ジェットコースターの前で言い合う二人はどう見てもカップルにしか見えない。神威たちがジェットコースターに行ったのを見て、神楽は目を輝かせて「私たちも入ろうよ!」と

沖田をジェットコースターの列に連れて行こうとしたが沖田は必死で拒否っている。沖田は幼少期のトラウマでジェットコースターが大の苦手だ。そのことを神楽は知っているはずなのに沖田を乗せようとしている。

 

「もう一回乗ってみれば変わるかもしれないダロ!トラウマ解消できるかもしれないネ!諦めるなヨ!!」

「いや無理でィ!っていうかてめぇの兄貴にも中学の修学旅行でそう言って乗せられたわ!で無理だったわ!!最後尾で余計にトラウマ植え付けられたわ!」

「……うわぁ」

 

かわいそうに、といった目線を神楽は沖田に向ける。いやお前の兄貴だからな。と心で怒りに震える。笑顔で無理やり乗せられ、終わった後疲弊している沖田を見て爆笑してきたのは神威だった。あいつはやっぱり許さねぇ。

 

「え~でも私は乗りたいアル。私絶叫系好きだもん。それに前来た時身長制限で乗れなかったし……」

六年前、当時小学二年生だった神楽は身長制限で乗れないアトラクションが何個かあった。それの一個がこの目の前にあるジェットコースターだ。

 

「てめぇが乗りてぇならてめぇだけで乗ってこい!俺待ってるから!神威たちが下りてくるの待ってるからァ!!お願い、三百円あげるから」

「……オマエそれでも男かヨ」

それでも男かと言われても苦手なもんは苦手だしもう二度とジェットコースターは乗りたくない。

「……もーわかったアル。かわりにカップル限定パフェ、奢るヨロシ」

「いや、おめぇ払う気なかっただろ」

「……オマエフリーフォールは?」

お金のことを言われると神楽は話題を逸らした。

 

「え、まぁ、フリーフォールならいいけど……」

「なんでフリーフォールは平気なんだヨ。意味わからないアル」

 

フリーフォールにしたらしい神楽が「えーっと……フリーフォールは確か……」と地図を見ながら探し始める。

「あっちアル!」そう言って神楽は沖田の腕を引っ張っていく。

 

(あれ、神威はいいのか?)

 

そう沖田は思ったがフリーフォールを乗りたくてうずうずしている神楽を横目に何も言えなかった。







 

「ん~~~おいしいアルゥゥ!想像以上ネ!」

「へぇ……そりゃよかったねィ」

しばらく色々なアトラクションなどを一通り楽しんだ後、休憩とちょっと遅めのランチがてらフードコートに入った。そこの店舗にある限定パフェを頼み、神楽は満足げだ。

 

限定パフェを手に席についた時の神楽の目の輝きようは半端なかった。確かに女共が好きそうなハートなどが散らされたパフェでいかにも、な見た目だった。

二人で食べても多いのでは?と突っ込みたくなるほどに大きなパフェは大食いの神楽には関係なく、まるでダイソンのように神楽の胃の中にどんどんと吸い込まれていく。

 

「あれ、オマエもう食べないアルカ?」

「あー別に俺そこまでいらねぇわ。一口二口食べたし。全部食べていいぜィ。俺ァ、しょっぱいもん食べたくなってきたわ。ポテトでも買ってくる」

「あ!私もポテト食べたいアル!」

「まだ食うのか……」




 

(ポテト、三個で足りるよな)

パフェを食べた後だ。自分の分一個、神楽の分二個で十分だと思い三個注文する。

 

「あれ~総悟じゃん」

ポテトを待っている最中にものすごく聞き覚えのある声がして沖田はギギギといった効果音がなりそうなほどゆっくりと首を回し、声のした方角へ顔を向ける。

そこには神楽によく似た男の姿、神威がいた。

 

「神威……」

 

そういえば、今日は神威のデートを尾行するのが目的だったのに、すっかり忘れて神楽と楽しんで遊んでしまった。

 

「神楽と?」

「まぁ……神威は彼女と?」

別に神楽と一緒にきたことを隠す必要もない。聞かれたら普通にカップル限定パフェ食べに来たとかで誤魔化せばいい。神威の尾行をしていたとはバレないだろう。

「あ、見た?別に彼女じゃないよ。ここの限定パフェとカップル割引目当てに適当にクラスメイトに声かけた」

神楽の言う通り、神威は限定パフェが目的だったらしい。食べ物や割引のために女を適当に見繕うとはやっぱ似たもの兄妹だと沖田は感じた。

「……ん?総悟の被っているそれ、俺の帽子じゃない?なんで総悟が被ってるの?え、俺そういうの結構気にするタチだよ?」

「……妹に聞け」

「えー総悟のハゲ遺伝子が移ったらどうしてくれるの?」

「いやハゲ遺伝子あるのお前。俺はサラサラで(多分)ハゲ遺伝子はねぇわ。残念だったな。お前はハゲ確定でィ」

「殺すヨ?」

 

いつもと同じように軽口を叩きあう。そうすれば神楽と一緒に遊園地のカップルデーに来たということを誤魔化せるかと沖田は考えていた。

 

「まぁでも、神楽は総悟と一緒に来れたんだねぇ……」

神楽のことを誤魔化せると思っていたがそうは問屋が卸さないらしい。

 

「……ん?来れた……?」

来れたとはどういうことだろうか。まるで神楽が沖田を誘ったと知っているような口ぶりだ。

「え、だって神楽、総悟とデートしたくてここのカップル限定パフェ口実に誘おうとか考えて……あ、」

 

やべ、これいっちゃいけないやつだった、やっちまった、テヘペロ。といった顔をしながら神威は笑う。

 

「……どういうことでィ?」

「え~それ話したら俺、神楽に殺されるやつだよ。嫌だね~自分で聞いたら??……っていうか、総悟覚えてないの?」

「何をだ?」

「六年ぐらい前?確か小六ぐらいの時、ここ来たデショ?」

「おめぇに振り回された記憶しかねぇけど」

六年前に何があったのだろうか。沖田はもう一度記憶を辿るがやはり思い出せない。

「ふーん、まぁ別に思い出せなくてもいいんじゃない?楽しんでね~」

これ以上神威は何も言うつもりがないようだ。遠くから神威を呼ぶ女の声が聞こえ、神威が「あ、遅くなる前に神楽帰してね」といって去っていった。

丁度その後すぐに注文したポテトが出来上がり、沖田は神楽が待つ席に戻る。





 

「お帰りアル!」

もうすでにパフェは食べ終えた神楽は来たポテトを嬉しそうに手に取る。

 

「あーそういやさっき神威に見つかったわ」

 

神威の名前を出すと一瞬きょとんとした顔をした後「ぁっ!」と思い出したような顔になっていった。

「え、あ、あーそうアルカ?え、えっと……何か言われたアルカ?」

「……まぁ別に俺も来てたのかって言われただけでィ」

「そ、そう……」

少しほっとした顔を見せる神楽。もしかしたら神威が言う通り神威のデートの尾行や限定パフェなどは建前で自分とデートしたかっただけなのかと沖田は期待してしまう。

 

「神威の隣にいた女は別に彼女とかじゃねぇってさ。限定パフェ食べたいから適当に声をかけたクラスメイトって言ってたぜ。お前の心配していたもんじゃなかったみてぇだ」

「そう アルカ……」

神楽はポテトを食べるのをやめて俯き、どんどん表情が暗くなっていく。

 

「ま、でもまぁもう金払っているから存分に遊んでいくかィ?」

「!!いいアルカ!」

暗くなっていた神楽の表情が一転してぱぁっと効果音がつきそうなほどの笑顔になった。

 

もしかして、神威の件が終わったから沖田が帰ると思ったのだろうか。

 

(か、かわいいじゃねぇか……)

 

あまりの神楽の可愛らしさに沖田は口元が緩むのをおさえきれない。沖田はばれないようにさりげなく口元を手で隠す。

今の顔は絶対神楽に見られたくないと沖田は思った。


 

「……そういや、六年前にも来たよな」

「うん」

「そん時なんかあったか?俺あんま思い出せないんだけど……」

 

「覚えて、ないアルカ?」

やはり何かがあったのだろうか。ぶっちゃけた話をすると沖田は神威に色々と振り回され、神楽が身長制限で乗れなくて拗ねていた記憶しかない。

 

「……覚えてないなら、それでいいアル。大したことじゃないし……」

 

大したことないという割に、かなり気にしていそうだ。あの時何があったかなぁと沖田は再度思い出そうとする。

断片的に思い出せない。ただ、神楽が泣いていた記憶はある。あれはどこでだったか……



 

***

 

「ほとんどのアトラクションは制覇したアルナ。ジェットコースター以外」

「ぜってぇジェットコースターは乗らねぇ」

「……まぁ他の絶叫系はほとんど乗れたし……あとは……」

神楽が目を向けたのはまだ乗っていない観覧車。

 

「……観覧車乗るのかィ?」

「オマエ乗れたよナ?」

「……チャイナいいの?」

「?なにが?」

 

沖田の言葉に理解できないのか神楽は首を傾げている。

 

「なにがって、観覧車はちゅーするところだぜィ」

ちゅーするところ、というのは沖田が勝手に言っていることで別に乗るカップルなどが全員ちゅーしているとは思っていない。ただ何となく神楽を揶揄いたくなっただけだ。沖田は神楽がどんな反応を見せるのか、興味があった。

 

「な、は、な。オ、オマエと私が乗ったところで何もあるわけないアル!」

顔を赤くして否定する神楽は意外だった。てっきり「オマエきもい。しばらく話しかけないで」と蔑んだ顔で神楽に言われると思っていた沖田は呆気にとられる。今まで男に思われてねぇなとは思っていたがまさかこれは……脈ありなのでは…?と沖田の中に渦巻く。

 

「……いや冗談でィ。まぁでもカップルにとっては絶好のキス場なのは間違いねぇ」

「……別のにするアル」

そういって神楽はパンフレットを開く。神楽が開いているパンフレットを沖田は横から覗き込む。

 

「大体アトラクション系は制覇したよなぁ……あ、お化け屋敷いってないだろィ」

「お、お化け屋敷……」

お化け屋敷の名前を出すと神楽は顔が青ざめていった。そういえば、神楽は昔ここのお化け屋敷に入ってえらい目にあった、というか合わされた、といった方が正しい。沖田のトラウマがジェットコースターだとしたら神楽はお化け屋敷がトラウマなのだろう。

 

「あーそういや昔お化け屋敷出た後、お前わんわん泣いてたねぇ……」

「あれはオマエと神威が悪いんダロ!!わ、わたし別にお化け屋敷が怖かったわけじゃない!別に入れるアル!怖くない!」

「まぁあの頃と違って大きくなってっから怖くないかもねぇ……」

「だからあの時も別に怖かったわけじゃ……」

「あーうんうん。わかったわかった。怖かったら俺の腕に捕まりな。貸してやる」

「……折るゾ」

「……ごめんなさい」

「わかればいいアル」






 

「あんまり怖くなかったネ。ただの驚かしアル」

「まぁ作りもんだとわかりゃ別に……グロいなぁって思うぐらいだったねぇ」

 

お化け屋敷に入って神楽が「キャー!」と沖田の腕にしがみつく展開はなく、神楽は怖がることもなくお化け屋敷を通過していった。もちろん沖田も驚いたり叫んだりすることはない。お化け役にとっては有り難くない客二人だろう。

 

しかし、あらかたアトラクションなどを回ったし、もうやりつくした感がある遊園地。

時計を見るがまだ帰るには早い時間だ。

 

他愛のない世間話をしながら遊園地のいろんな場所を歩き始めることにした。




 

「おめぇはなんで今日、俺を誘ったんでィ」

少しの期待を込めて沖田がそう話しかけると、神楽の足が止まった。明らかに動揺をし始めた神楽を横に沖田は内心ニヤニヤしている。

 

「いやだからそれは……神威の……あと限定パフェ食べたかったカラ……」

「へぇ……じゃあ神威が言ってたのは嘘だったってことかィ?」

神楽は口をわなわなと震わせながらか細い声で話す。

「か、神威はなんて……?」

「それはお前が一番わかっているんじゃねぇの」

神楽は再度顔を俯かせ、顔を赤面させて黙り込む。俯いているが耳が赤いのがまるわかりだ。

 

「……それ……て……」

しばらく黙っていた神楽が言葉を発したがあまりにも震えて小さかったため、沖田の耳には届かない。

 

「え、なんていった?」

「だから!それを聞いてお前はどう思ったアルカ!!」

「どう思ったって……」

 

「どうせお前は何とも思わなかったダロ!いつも綺麗な姉ちゃん囲まれて!こんなっ、ガキの私なんかに誘われたってうれしくもなんともないんだろ!そんなのわかっているアル!」

周りが「痴話喧嘩か?」とざわめいているのを所構わず神楽は続ける。

 

「あの約束だって、オマエは忘れるぐらいどうでもいいもんだったダロ!私だけが……私一人馬鹿みたいアル……」

 

「約束って……」

 

そのまま去ろうとしている神楽の腕を沖田が掴むと神楽は目に涙をためた顔で沖田の腕を振り払い「知らないアル!」と叫んで走っていった。

 

沖田は何が起きたのかわからず、神楽が走っていく後ろ姿を見ているしかなかった。

 

そのまま走り去る神楽の後ろ姿。どこか沖田には見覚えがある。既視感なのか、前にも似たような光景を見た気がした。

 

しばらく思考停止していた沖田。神楽の姿が完全に見えなくなったところでようやく思考が戻り、神楽がどこに行ったのか探し始める。


 

六年前の約束、自分は神楽と何を約束したのか。

泣いて走り去る神楽を見て、頭の片隅にあった記憶がふと断片的に思い出される。


 

――泣くなって

 

――うっうっ!ないてないありゅ!

 

――泣いてんじゃん……

 

――うりゅさいっ!ないてないったらないてないアル!!オマエなんて知らないアル!!



 

(なんであの時チャイナはあんなにもひどく泣いていたんだっけ)




 

――約束アルヨ。神楽が立派なレディーになったら……


 

あぁ、そういえば、そんな約束をした。

 

断片的にしかなかった記憶が繋がっていった。

 

走っていった神楽を探しに沖田は足を進めた。



 

***


 

「……いたっ……ハァッ」

 

神楽は遊園地の端にあるベンチに膝を抱えて座っていた。人気のないこの場所。やはりここに居たのか。


 

「やっぱッてめぇ……足ッ……はえぇなぁ……」

 

沖田の声に反応して神楽が顔だけ上げる。

 

「……何アルカ?」

「迎えに来た」

「……どうでもいい女なんてほっといて勝手に帰ればいいダロ」

 

完全に拗ねている神楽はそっぽを向く。

 

「俺ァ、どうでもいい女なんざこんな息切れして追っかけてこねぇよ」

「えっ……」


 

「……『神楽が立派なレディーになったら、ここでデートしよ』だっけか?」

 

昔、あまりにも乗れるものが少なく、拗ねていた神楽を神威と一緒に二人で揶揄した。「チャイナは乗れないのばっかだからこなければよかったのに~」といったような発言をした記憶がある。神楽は傷つき、泣いてしまい、どこかに走っていってしまった。姉などに叱られ、探しまくった末に沖田が見つけたのがここのベンチに座っていた神楽だった。

その時も今と同じ、膝を抱えて座っていた。

 

あまりにも泣いて動こうとしない神楽。

 

――ひどいこといって悪かったって、別に本気でお前のこと邪魔とかこなければなんて思ってねぇから。だから泣き止めって。

 

――ぐすっ……本音だっただろ……

 

――違うって……あーもーお前の身長が伸びたらもう一回遊びにこようぜ。そうしたらチャイナも遊べるだろ?

 

――え……つれてきてくれるアルカ?

 

――おう

 

――本当?

 

――男に二言はねぇ

 

――じゃあ、約束アルヨ。神楽が立派なレディーになったら、ここでデートしよ

 

――あぁ、約束でィ




 

「あんなガキの頃の約束、覚えているなんて思わなかったわ」

「オマエにとってはなんでもない約束でも、私にとってはとても大切な約束だったアル。私を泣き止まらせるためだったとしても、本当にうれしかった」

あの時、何気なく約束したあの言葉がここまで神楽の中に入っていたとは思わなかった。神楽の言う通り、沖田にとってはそこまで重要な約束でもなかった。

 

「自分でもバカだと思っているアル。……オマエとどんどん遠くなっていって、さびしかった。私……最初で最後。オマエとここでデートしたかったアル。……素直に誘うことできなくて神威とか限定パフェとか口実に使っちゃったけど……」

「なんで、最初で最後だよ。またこればいいじゃねぇか」

 

まるで、もう二度と沖田とデートしないという口ぶりに聞こえてしまう。

 

「……でも、オマエいつも綺麗な人に囲まれているし……私みたいなちんちくりんに」

「ちんちくりんでも、俺ァ、てめぇ以外を女と思ったことないわ」

「……それって」

いつから神楽に恋愛感情を抱いていたのかはわからない。でも気が付いた時にはもうすでに気持ちはそこにあった。

 

「……小っ恥ずかしいから察しろよ」

「い、言わなきゃわからないアル!」

 

神楽は顔を赤くして胸のあたりでぎゅっと手を握りしめている。沖田は神楽の目の前に立ち、「一回しか言わねぇ」と神楽の耳元に口を近づける。


 

「ちんちくりんなまな板で、ゴリラで、いつも酢昆布食べているようなダイソン女でも、俺はてめぇに惚れてらぁ」

「ッ……」

 

神楽は目から涙を流し、沖田に抱き着く。沖田はそれを受け止め、二人してしばらく顔を合わせながらクスクスと笑いあう。

 

「そろそろ暗くなるから帰らないとねぇ……神威にどやされるわ」

短いような、長いような抱擁を終え、時計を見ると結構時間が立っていた。

「そう アルナ……」

「ん?どうした、まだなんか乗りたいのあるのか?」

すると神楽はもじもじと指を動かし、沖田の手を握る。

 

「あ、あのナ……帰る前に……観覧車、乗ろうヨ」

「え……?」

 

「観覧車はちゅーするところ、デショ?」

「……チャイナ、いいの?」

「……うん」

神楽は顔を赤らめながら呆気に取られている沖田の顔を見ながら笑った。

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