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瞼の裏に光りを感じて、徐々に意識が浮上するのを感じた。ゆっくり瞼を上げると見慣れぬ天井だった。ぼんやりと身体を起こし、辺りを見回してから沖田は思い出す。

 

「そうか、旅館か……ってチャイナ!?」

 

って昨晩どうやって寝た?徐々に記憶が蘇ってくる。

そうだ、部屋に戻ってきて、ソワソワと歯磨きなんかしたりして神楽を待っていた。期待しすぎないように、戒めの為に土方の写真を見てイラついていたのは覚えている。

それから……そうだ、ベッドで寝転んでたら、テレビの音が煩く思えてきて音量だけ下げた。寝てしまったら神楽に悪いと思いながら。

そこから厠に行って、もう一回寝転んでからの記憶がない。

 

ただいつも眠りの浅い自分が、こんなに一晩中熟睡したのはあり得ないくらい、朝まで一瞬だった。だから頭はこんなにスッキリしているのか。何となく身体から神楽の匂いがする気がして、肩当りをクンクンと嗅いでみた。一晩中この香りを嗅いでいたような気もする。マジかよ、昨晩の自分。

 

視界に入った隣の枕には、使った形跡がある。更にピンクの髪の毛が落ちていて、神楽がここで寝たらしいことは分かった。しかし勿体ないことに全く記憶にない。それより神楽はどこだ?

 

「あ、起きたアルカ」

ガチャリと音がして、部屋の扉が開く。神楽はバスタオルを肩に掛けていたから、どこへ行っていたのか一目瞭然だ。

「風呂行ってたのかよ。起こしてくれりゃあ良かったのに」

「グッスリ寝てたしナ。私は寝てる所起こされたら凄く嫌だモン」

「はぁ。まぁ、いいや。まだ飯まで時間あるから、俺も風呂行ってくらァ」

「着替えてるからごゆっくり」

 

神楽とすれ違う時に、いつもと同じようでどこか違和感を感じた。もしかして、昨晩何かしてしまったのだろうか……?

それなら流石に記憶に残っているだろう。自信はないが。

首を傾げながら、沖田は大浴場へと向かった。


 

ガチャリと扉が閉まって、神楽は今日着る服を出した。ソワソワと新しい下着を着けた意味は全く無かったけれど。

一晩中くっ付いて寝たから役得ではあった。片思い同士、隙間を埋め合うのもありじゃないかと思ったが、酷く狡い女の様に思えて頭を振った。

 

いつもの赤いチャイナワンピースに着替え、髪をいつもと同じように整えてから、神楽はお茶を入れてテレビを付けた。

 

「あれ?」

 

座卓に湯のみを置くと、土方の写真がベッドの下に半分隠れて落ちていた。

 

どうしようと逡巡した神楽だったが、とりあえずこのままでは捨てられてしまうような気がして、ワンピースのポケットに入れた。

 

しかし程なく戻ってきた沖田と朝食に向かった神楽は、朝からズラリと並んだご馳走に夢中になり、写真の存在を忘れてしまったのだった。

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